太郎の写真

太郎は生まれて間もなくNICUのある病院に搬送された。
太郎は1700gで生まれてきた。彼はあまりにも小さかったからだ。

産婦人科の先生が
【元気やけど、一応入院して貰うな】
と言ったのを覚えている。

救急車が来て母と主人が同乗した。
出産を終えたばかりの私は前夜からの陣痛と出産で体力を使い果たした上でのその出来事に、心が着いていかなかった。
救急車が去ってゆくサイレンを聞きながら呆然としていた。

その日から私が出産するまで、毎日母乳を太郎の元に届けてくれたのは主人だ。
【今日は3cc、口からミルクを飲みました】
と看護師さんが言ってくれたと嬉しそうに報告してくれた。
え?3cc?と思う数字。
けれどもあの時の太郎にはその3ccを【口から】飲めたことが本当に大きな進歩だった。

そして主人は看護師さんが撮ってくれた太郎の写真を持ってきてくれる。
私は枕元にその写真を置き、暇さえあれば太郎の顔を見ていた。
違う病院に居る私達母子。
その間、太郎には会えなかったから。

ある日年配のスタッフが病室に入ってきた。
その人は用事を済ませ、部屋を出ようとした時に太郎の写真に気付いたようだ。

【向こうのスタッフが撮ってくれたん?】
と聞かれ
【はい】
と答えた私に、その人は吐き捨てるように
【大きく写してくれてるけど、ほんまに小さいからな!】
と言ったのだ。

一瞬何を言われたのか分からなかった。
その人の言葉に優しさは全くなく、太郎を小さく産んでしまった私を責めているかのような口調だった。

それでなくても現実に打ちのめされていた私は、自然と涙が溢れてきた。

その涙に気が付いたのか、そのスタッフはちょっとばつが悪そうに
【あ…ごめん…】
と謝り、部屋を出て行く。

その後1人になっても、涙は次から次へと溢れた。

しばらくして主人に電話をした。
私が泣き声だったので、ちょっと驚いた主人は優しく【どうした?】と聞く。
けれども私はさっき言われた一言を喉元で飲み込んだ。
何故飲み込んだのか、未だに分からない。


病院のスタッフにしてみれば赤ちゃんが小さく生まれたり、その他何がしかの緊急事態には慣れているのだろう。
仕事をする以上、緊急時対応は身につけておいて貰わなければならない。
だが、慣れすぎてしまった余りに越えてはならない一線を忘れてしまうことだけはあってはならない。
不用意に発したその言葉が相手にどう響くのかを考えられないのならば、医療職は辞められた方がいいと思う。

今の私なら即座にその言葉の300倍は言い返せる。
けれども出産して僅か数日の私にそれは出来なかった。

太郎に関しては、陣痛よりも出産よりも、1番はっきりとした記憶はその時泣いていた私自身だ。

あの時の自分を抱き締めてあげたいな、と今朝通学バスに乗り込む太郎を見ながらふとそう思った。








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Commented by chico-plus2018 at 2018-11-01 22:35
okanさんこんばんは(^o^)

なんだ、そのスタッフ、医療従事者としてはもちろん、人として最低ですね。
(言葉が強くてごめんなさい、でも、それ以外に見つからない)
1番ナーバスな時に支えてあげなきゃならない立場の人が!!

ふと思い出すそういう記憶、私も(たくさん)あります。
怒り、悲しみ、蔑視、、、様々な感情が出てきます。
が、きっと、いずれ、『あぁ、そんなことをのたまう奴がいたなぁ』と思える日が必ず来ると思って、消化できない気持ちを一旦は消化したつもりでいたりいなかったり。

いや、必ず来ます、その日が。

あの時のokanさんを抱きしめているokanさんを抱きしめてあげたいです(*´ω`*)
Commented by mashiro507 at 2018-11-01 22:52
そういう言葉って一生忘れられないよね。
私にはその人が何を言いたかったのか全然理解できないや💦
母親になって、まだ数日のokanさんが小さく生まれた事を気にしてないとでも思ったんだろうか。
何度も何度も考えたけど、やっぱりその方が何を言いたかったのか分からない。

変なコメントかもしれんけど…こうやって太郎くんが生まれた時やその時のokanさんを知れるのが嬉しい。
なんか知らないはずなのに、私もそこにいるような気分になるの😌
昔からokanさんの友達だったような気分になるのよ(*´▽`*)
Commented by ganbaru-okan at 2018-11-02 10:41
> chico-plus2018さん
そうですよね。
本当に人としてどうなんだと思います。

今そのことを思い出しても腹立たしくはない(今となってはその人を軽蔑しているので)のですが、つくづくとあの時の自分が可哀想だったなぁと思うんですよ。

そういう記憶は早く薄まればいいのになぁと思います。
日々の肝心なことは忘れるのにねぇ(¯∇¯٥)

あの時の自分を抱き締めている私を抱き締めるplusさんを、更に抱き締めたいです(笑)
もう訳がわかりませんが(笑)

いつもありがとうございます。

Commented by ganbaru-okan at 2018-11-02 10:45
> mashiro507さん
その人は何を言いたかったんだろうね。
私にもわからん(笑)
写真を見てる私にちょっと言ってやろうと思ったのかな?

太郎や花子の小さい頃の話なら無限に書けるな(笑)
っていうか、私達、その頃からの友達だったよね?何なら前世からだっけ?(笑)

いつもほんとにありがとね!
Commented by ohisamahappy at 2018-11-03 10:37
はじめまして^^

ましろさんのところでお見かけして、たまにお邪魔していました。

うちの長女も小さく生まれまして、最初はNICUにいました。
小さいとはいえ2000gはぎりぎり超えていたし、母乳の飲みも良くて、さほど心配ない赤ちゃんということでほんわか見守っていただけていたようです。
でもやっぱり、自分のほうが早く退院したりだとか、せっかく生まれたのになかなか一緒にいられなくて寂しく思ったものです。
周りは「小さく産んで大きく育てるって言うからね」と慰めてくれるんですが、全くもって何の励みにもなりませんでしたw
知った風なことを言われるくらいなら、「心配だね」とか「寂しいね」って共感してくれる方がありがたいのに、と本気で思っていた罰当たりなヤツですw

その年配のスタッフさん、どうしたんでしょうね。
何かにイラついてでもいたんでしょうか。
ともあれ、きっと阿呆な人なんですね(言い過ぎた…)
Commented by ganbaru-okan at 2018-11-03 12:40
> ohisamahappyさん
初めまして!訪問ありがとうございます!

本当に今から思うと、あの時は共感してくれた方がまだ救われたんですよね。
不安で仕方なかったですし。

なのにその言い方(ㆆ_ㆆ)

ふとした時に出る言葉ってやはり素のその人を表してるよなぁと今なら思いますが、あの時はそんなことなど思える筈もなく…。

ご長女さんもNICU仲間だったんですね☆
あの頃は色々と不安でしたが、こうして文章に出来、それに共感して下さる方々が居てくれることが本当に有難いです。

ありがとうございます。



by ganbaru-okan | 2018-11-01 10:45 | 誕生~障害の告知まで | Comments(6)